弁膜症・冠動脈疾患について

弁膜症・冠動脈疾患の仕組みや症状をご紹介します。

弁膜症とは

心臓は全身に血液を送るシステムである左心系と、肺に血液を送る右心系とに大別されます。
その各々に逆流防止弁の“弁膜”によって入り口と出口が形成されています。
弁膜は、血液の流れでイソギンチャクのようにふわりと開いて閉まる薄い膜と、膜を心臓に固定するひも状の組織(腱索)などで構成されますが、動脈硬化などで硬くなり開きにくくなったり、細菌感染や高血圧にさらされることで切れて壊れてしまうことがあります。
そのためにうまく働かなくなった病態を弁膜症と呼びます。大別すると、硬く開きが悪くなる状態を「狭窄症」と呼び、しまりが悪く血液が逆流してしまう病態を「閉鎖不全症 (逆流症)」と呼びます。
心臓の弁膜の種類には大動脈弁・僧帽弁・三尖弁・肺動脈弁の4 つの弁膜があり、各々に狭窄症と閉鎖不全症が存在します。
なかには、硬くなってしかも閉まりが悪くなる「狭窄兼閉鎖不全」という病態もあります。

心臓を上から見た断面図

インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(一部改変)

狭窄症では弁膜が硬く開きにくいために、血液の通過障害が起こります。
例えば、強いポンプである左心室の出口が大動脈弁ですが、大動脈弁狭窄症では出口が開きにくくなるために出口の前後で血液の圧力に差が発生してしまいます。 腕の血圧が 120mmHg とすると、健常者では左心室内は同じ程度の血圧です。しかし、大動脈弁狭窄症では例えば120mmHg の血圧の時に、左心室内は 180mmHg となるなど 60mmHg の“圧較差”が発生してしまいます。左心室は 1 日 10 万回、180mmHg の血圧を発生するために筋肉が分厚くなって対応しますが、過大な心室肥大による狭心痛や不整脈などの症状が生じてきても放置すると、約 2 年で 7 割以上の方に生命の危機が訪れるとされます。

心臓の縦断面図

インフォームドコンセントのための心臓・血管病アトラス(一部改変)

人工弁置換手術が基本ですが、当院では一般的な正中切開だけではなく、6-7cm 前後の右小開胸の低侵襲手術も行っており、低侵襲化に力を入れています。
また、症例によっては開心術ではなくカテーテルによる TAVI という治療法も外科内科共同のハートチームで行っております。

TAVIについて

閉鎖不全症では、弁膜の破壊のためにしまりが悪くなり血液が逆流してしまいます。
例として僧帽弁閉鎖不全症を説明します。肺から左心房に流入した血液は僧帽弁が開くことで左心室に流入し、充満した血液は強力な収縮により大動脈に駆出されて全身に供給されます。その時僧帽弁がきちんと閉鎖することで、駆出された血液が左心房に逆流するのを防いでいます。
僧帽弁閉鎖不全症では、弁膜の閉鎖が不完全なために、強く駆出された血液の一部が左心房に逆流するために生じる病態です。通常左心室の収縮による血圧は 100-140mmHg 程度ですが、左心房の血圧は 6-12mmHg 程度と低圧です 。僧帽弁のしまりが悪いと、血圧が低い左心房に多量の血液が逆流してしまいます。そのために左心房とそこにつながる肺の血管の血液が増えてしまい、肺の血圧が上昇することで息切れ・呼吸苦などの症状が発生します(心不全症状)。
肺の血液が増えるために、左心房や左心室に入ってくる血液もその分増加しますので、左心房と左心室の体積が増えます(心拡大) 。僧帽弁は心臓の拡大のために引っ張られてしまい、膜同士の接合が余計に悪くなるため逆流はさらに悪化してそれが心拡大を助長するといった負のスパイラルに陥ります。
左心室が拡大すると、バネ状の心筋細胞が引き延ばされて伸びきったバネのようになり、心臓の収縮が次第に弱くなってきます。こうして慢性心不全と呼ばれる病態になります。この状態が長期間持続すると心機能の回復自体が難しくなり、また全身に送られる血液が減少するために腎臓をはじめとする全身の臓器の働きが弱くなります。
重症の僧帽弁逆流を患う方は、手術治療のタイミングなどにつき是非ご相談ください。
僧帽弁閉鎖不全症に対する治療では、 「弁形成手術」と呼ぶ自分の弁を修理して逆流を制御する手術の長期予後が良好であることがわかっています。当院でも弁形成手術を中心に行っており、これまで良好な手術成績を得ています。
また当院では、別項に述べる低侵襲心臓手術(小さな傷で行う心臓手術です)を積極的に行っております。ご相談いただければ丁寧に説明いたしますので外来受診をお願いいたします。

ロボット・MICS 手術

冠動脈疾患とは

心臓は、全身に血液(酸素)を送り出すポンプ作用を担っている大切な臓器です。
心臓自身にも血液(酸素)が必要であり、心臓の筋肉に酸素と栄養を送る血管を冠動脈といいます。
冠動脈が動脈硬化などで狭くなったり、詰まったりするが病気を狭心症、心筋梗塞といいます。
治療として、内科治療(薬剤療法、心臓カテーテル治療など)もしくは外科治療(冠動脈バイパス術など)が挙げられます。

冠動脈バイパス術(CABG)とは、心臓の筋肉に酸素と栄養を送る冠動脈が動脈硬化などで狭くなり、血流が不足している場合に行う外科治療です。
狭心症や心筋梗塞の原因となる血流障害を改善し、症状の軽減や再発予防、生命予後の改善が期待されます。
手術では、胸の動脈(内胸動脈)や足の静脈(大伏在静脈)などを用いて、狭窄・閉塞部位を迂回する新たな血液の通り道(バイパス)を作ります。
これにより心筋への血流が回復し、安定した心機能の維持が可能になります。アプローチ方法は、胸骨正中切開もしくは小開胸でのアプローチがあります。

心臓と主要な動脈・静脈の位置関係を示した模式図 血管を縫合して吻合している手術の模式図

当院では、熟練した心臓外科チームが一人ひとりの状態に応じて、安全で確実な手術を提供しています。
術前・術後の管理も循環器内科や麻酔科と連携し、万全の体制で行っております。
冠動脈疾患の診断から手術、術後フォローまで、どうぞ安心してご相談ください。

冠動脈バイパス後の血管走行を示す3D CT画像

図:左内胸動脈と大伏在静脈を用いた CABG の術後 CT 検査