ロボット心臓手術/ MICS (ミックス)手術
高度な技術と経験を活かし、当科ではロボット手術およびMICS(低侵襲心臓手術)を実施しています。
心臓の手術が必要といわれ、大きな不安を抱えておられると思います。
心臓手術のなかでも、少しでも体への負担を減らして早期の社会復帰を目指すための方法についてお伝えしたいと思います。
胸の中央を触れてみてください、硬い骨があると思います。これは胸骨と言って、厚さ2cm
ほどの板状の骨で、左右に肋骨が付着しています。心臓の手術を行う場合、一般的には胸骨を真ん中で縦に切開して心臓に到達します。
胸骨の中は「骨髄」と呼ぶ血液を作る臓器ですので、切開すると出血しますし、血行豊富な骨髄に細菌感染を起こすと「菌血症」など重篤になる場合があります。
また、切開した骨が治癒するには数か月かかりますので、その間はどうしても手術後の運動制限
(体をひねる・重い物を持つなど)が必要で社会復帰が遅くなってしまいます。
これらの併発症や社会生活上の不具合を少しでも改善するために MICS (ミックス;Minimally
Invasive Cardiac Surgery, 低侵襲心臓手術)が普及しつつあります。
当院では 2013 年より
MICS を行っており、手術内容は弁膜症手術 (人工弁置換・僧帽弁形成術・2
つ以上の弁膜症の同時手術)や、冠動脈バイパス手術、心房中隔欠損症などを対象としています。
手術内容により傷の場所や大きさは変わりますが、弁膜症の場合は右の肋骨の間を6-7cmほど切開して手術を行います。胸骨を切開しないので、先ほど記載した胸骨に関する併発症や運動の不具合が発生しないため、手術後のリハビリが進みやすく、炎症反応の低下も早いことが特徴です。
しかし、手術操作を長い「お箸」のような道具を使って精細な操作を行う必要があるため、外科医の練度が必要とされます。したがって一般的なアプローチで行う方法よりも、心臓に対する手術操作の時間はやや長くなる傾向があり、その点は一長一短です。
当院では、少しでも併発症の発生リスクを下げるように、手術前の全身検査を詳細に行っています。
ひとりひとりの患者さんの身体特徴を把握したうえで、練度の高いチームでMICSを行っており良好な結果を得ております。
ロボット手術は、当院で 2019 年より開始した方法であり、MICS での「箸のような長い道具」のかわりにロボットの小さく細いアームで行う手術方法です。 ロボットアームは、人間の手よりもよく曲がり回転する関節をもっているため、特に弁膜や心臓の縫合が多い手術では、無理せず精細な「運針」が可能です。 また、外科医の眼のかわりに内視鏡を使用する MICS では、内視鏡で見ている画面と手術を行う外科医の位置関係がずれてしまい、内視鏡では手術部位を正面から見ることができても、外科医が持つ手術器具は画面の斜めから挿入されることもあるため、手術操作に はかなりの慣れが必要です。 その点ロボットは、内視鏡とロボットアームが一体となっているため、正面から手が伸びてあたかも目の前で手術を行う感覚です。特に僧帽弁形成術では、手術後の長い時期を健常な弁膜が維持できるように、弁膜の長さの調整などを非常に細かく行う必要があります。 その点ではロボットの使用は患部に接眼して、あたかも正面から手の内で手術をおこなうことができる印象であり、特に僧帽弁形成手術には有利であると考えています。
上記のロボット/MICS 手術は、すべての患者さんを対象とするわけではなく、各患者さんの病状や身体的特徴、動脈硬化の程度などによってはむしろ不利になることもあります。 したがって、手術前の精密検査が重要であり、それを怠ることはできません。不利と判断した場合は、一般的な治療を受けていただきますが、その際も術前精査での診断は非常に役立ち、最善の方法を選ぶ大きな助けとなりますのでご協力ください。 当院では、ロボット手術と MICS を使い分けて、これまで良好な結果を得ていますが、さらに良い成績の手術が行えるように日々研鑽しています。不安な点があれば外来等で躊躇せずご質問ください。
日本で唯一の、ロボット心臓手術のカダバートレーニングセンター
ロボット心臓手術の術者となるには、日本ロボット心臓手術関連学会協議会の術者認定が必要です。
認定を受けるにはカダバートレーニングといって、篤志から献体していただいた御遺体でロボット手術のトレーニングを行う必要があります。以前はロボット心臓手術のカダバートレーニングが可能な施設が国内にはありませんでしたので、海外のセンターで受けなければなりませんでした。しかし、コロナ禍で渡航が困難となり、認定を受けることができなくなっていました。
そこで、わたしたちはロボット製造会社と協力して、藤田医科大学にロボット心臓手術のカダバートレーニングセンタ―を設立しました。2022年6月から、本邦でのロボット心臓手術の術者認定ができるようになりました。
新規にロボット心臓手術を行う術者となる先生は、当院のカダバーセンターでトレーニングを受けており、お互いの切磋琢磨の場となっています。